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白木裕子の「実践!仕事力の磨き方」 白木裕子の「実践!仕事力の磨き方」

新たに示されたケアマネの業務範囲。その線引きが現場に及ぼす影響は

日本ケアマネジメント学会副理事長の白木裕子先生が、介護保険制度や社会情勢に対応するためのポイントや心構えを、わかりやすく伝授する「実践! 仕事力の磨き方」。今回は、厚生労働省の「ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会」で新たに示されたケアマネジャーの業務範囲が、ケアマネジャーの働き方や居宅介護支援事業所の運営にどのような影響をもたらすのか、そして、現場のケアマネジャーが改めて心がけるべきことは何かについて、白木先生がアドバイスします。

4つに分類されたケアマネの業務

12月12日、厚生労働省の「ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会」(ケアマネジメント検討会)が「中間整理」を公表しました。

「中間整理」では、居宅介護支援事業所で現にケアマネジャーが実施している業務を、厚生労働省が初めて分類しました。具体的には、「法定業務」「保険外サービスとして対応し得る業務」「他機関につなぐべき業務」「対応困難な業務現在」に仕分けられています。(表参照)

業務の類型 主な事例 対応例
①法定業務
  • 利用者からの相談対応
  • 関係機関との連絡調整
  • ケアプラン作成
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②保険外サービスとして対応しうる業務
  • 郵便・宅配便等の発送・受取
  • 書類作成・発送
  • 代筆・代読
  • 救急搬送時の同乗
地域の関係者間で協議
保険外サービスとしてケアマネジャーが対応、または他の地域資源につないで対応
③他機関につなぐべき業務
  • 部屋の片付け・ゴミ出し、買い物などの家事支援
自費サービス、NPO団体、ボランティア団体等
  • 福祉サービスの利用や利用料支払いの手続き
  • 預貯金の引出・振込
  • 財産管理
市町村、地域包括支援センター、社会福祉協議会と連携(→日常生活自立支援事業や成年後見制度の利用へとつなぐ) 等
  • 入院中・入所中の着替えや必需品の調達
  • 病院や施設等と打合せ、体制を整える(社会福祉協議会や知人の協力を仰ぐ)
  • 自費サービスやサポート事業者
  • 徘徊時の捜索
  • 家族、友人・知人、近隣住民などに捜索への協力を仰ぎ、その後の対応は警察等へつなぐ
  • 行政、地域包括支援センター、民生委員等と連携→見守りネットワークを構築)
  • 介護保険の徘徊感知器等や民間のGPS
  • 死後事務
高齢者等終身サポート事業者 等
④対応困難な業務
  • 医療同意
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ただ、この線引きが定められたからといって、ケアマネジャーの「シャドーワーク問題」がすべて解決できる、というものではありません。この線引きに従って「業務内なら取り組み、業務外なら取り組まない」と割り切ってしまえるほど、ケアマネジャーの仕事も、在宅介護の現場も、単純なものではありません。業務に取り組むかどうかを判断するには、制度上の線引きに加え、地域性と利用者の個別性を加味しなければなりません。

少し具体例を交えて考えてみましょう。例えば。
「足腰が弱った独居のご利用者。そのお宅のリビングの電球が切れていることがわかった」

こうした場合、電球交換はケアマネの仕事ではないから知らない顔をして帰るという選択をすることはまずないでしょう。真っ暗な部屋で生活するご利用者を放置することは、普通の感覚ではありえません。

一方で、このケースでは、どのように対応するでしょうか。
「ご利用者が、訪問するたびに郵便箱の確認と、封筒・手紙などの書類の取り出しを求めてくる」

このケースでも、対応する方もいるでしょう。ただ、この場合、ケアマネが対応し続けるのではなく、何らかの対応を考えなければならないと思います。

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「突発」か「常態」か、それが判断の分かれめ!

2つのケースの違いは、突発の単発対応か常態的な対応か、ということです。

電球の事例のように、目の前で困っている人が突然現れて、助けられる人は自分しかいない、という状況であれば、それは助けるべきでしょう。業務範囲が、という話ではなく、それこそ、人として。ただ、突発的な事象に対応したことは事業所内で共有しておきましょう。

そして、その対応が常態化しそうであれば、事業所内だけでなく、関係する事業者全員で対応を検討すべきです。

こうした問題の多くは、ケアマネだけで解決できるものではありません。常態化することが見込まれる場合は、本来、誰が担当すべき業務かを、自治体や地域包括支援センターの関係者も交えて打ち合わせをすべきでしょう。

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ケアマネの業務範囲は地域の問題という意識を

この打ち合わせを自治体や地域包括支援センターに打診すると「それは契約上、民間同士の話だから、民間で解決してほしい」と言われることもあるかもしれません。ですが、この認識は明らかに間違っています。もし、あなたの地域の役所職員や地域包括支援センターの職員からこのように言われたら「これは地域の問題ですので、地域包括支援センターや介護保険課の職員の方も、相談に出席していただきたいです」と、しっかり伝えてください。

業務によっては、打ち合わせをするまでもなく、ケアマネジャーが担当すべきではないものもあります。まず挙げられるのは、ご利用者の入院の同意書へのサインです。急病で倒れたご利用者をケアマネジャーが発見した場合、救急車に同乗するのは、突発対応といえるでしょう。でも、入院の同意書にサインをするのはケアマネジャーの業務範囲を完全に逸脱しています。実際、この業務については厚労省の分類でも「対応困難な業務現在」と位置付けられました。

また、マイナンバーの申請をケアマネジャーが支援するよう通達している自治体もありますが、マイナンバーは、個人情報の最たるものです。本来、やるべき仕事とは思えません。預貯金の引き出しなども同様です。個人の情報や財産に直結する支援は、ケアマネジャーが単独で取り組むべきではないのです。

悩ましいのは、やむを得ず、ご利用者の自宅の鍵を預かってしまっているケースです。そうした場合は、預かっている鍵の番号などを事業所や地域包括支援センターと共有するなどして、鍵を預かっているという責任を1人で背負いこまない工夫が不可欠です。

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ケアマネこそ意識すべき、「業務外でも対応」が招く影響

最後に、誰よりも、業務範囲を強く意識していただきたい職種に触れておきます。ほかでもない、ケアマネジャー自身です。中には、「業務外であっても、できる限り対応してあげることこそがご利用者のため」と考え、行動してしまう人がいると思います。

もし、実際にご利用者のために、業務範囲などを考えず、できる限りの取り組みをなさっている方がいるなら、ぜひ、想像してみてほしいのです。あなたの後任の人が「前の人は買い物も、ペットの世話もしてくれたのに。同じケアマネでしょ?サービスしてよ」と後任の人が言われてしまうことを。

良かれと思ってやったことが、後に続く人には大きな迷惑になることもあるのです。そのことをしっかり意識する上では、国の検討会が業務範囲を提示したことは、良いきっかけといえるかもしれません。

コラム国の検討会、中間とりまとめで示されたのは

ケアマネジメント検討会の中間整理では、ケアマネの業務範囲のほか、人材不足に対応するため、他産業・同業他職種に見劣りしない処遇の確保やシニア層が働き続けることができる環境の整備、ケアマネ試験の受験要件の緩和などの必要性も指摘されました。また、現場のケアマネにとって負担が大きいとされる更新研修については「大幅な負担軽減を図るとともに、あわせてその在り方を検討」する方針も示されました。

白木 裕子 氏のご紹介

株式会社フジケア社長。介護保険開始当初からケアマネジャーとして活躍。2006年、株式会社フジケアに副社長兼事業部長として入社し、実質的な責任者として居宅サービスから有料老人ホームの運営まで様々な高齢者介護事業を手がけてきた。また、北九州市近隣のケアマネジャーの連絡会「ケアマネット21」会長や一般社団法人日本ケアマネジメント学会副理事長として、後進のケアマネジャー育成にも注力している。著書に『ケアマネジャー実践マニュアル(ケアマネジャー@ワーク)』など。

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