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ケアマネジャーさんの知恵袋~
日々のケアを彩るヒント集~
【Vol.6】住環境改善に向けた医療連携のポイント

監修:看護師・主任介護支援専門員 
雨師 みよ子

ケアマネジャーさんの知恵袋 ~日々のケアを彩るヒント集~【Vol.6】住環境改善に向けた医療連携のポイント

住環境の改善における医療機関との連携は、ご利用者さまが安全で快適な在宅生活を送るうえでとても重要です。住環境の健康面への影響を評価し、連携すべきポイント、必要なバリアフリーの改善、事故防止のための安全対策、そして、ご利用者さまの自立を支える住空間の設計など、さまざまな視点から考えていきましょう。

(1)医療と住環境の関連性の理解

医療と住環境の関連性の理解

退院時などに医療機関と連携して住環境を改善する際には、その環境が健康に与える影響を深く理解することが必要です。入院時から退院後の環境での日常生活活動(ADL)を見据え、専門的な評価に基づき、健康状態・心身機能に応じたADL訓練(動作指導や福祉用具の紹介・使用方法の指導)などを行っている理学療法士や作業療法士・言語聴覚士など、専門的な見地からの意見を取り入れることは、ご利用者さまの暮らしを支えるうえで、とても重要になってきます。退院後の環境整備は、ご本人やご家族、特に介助者の能力に応じた自立的な在宅生活を継続させることとしており、住宅改修をはじめ、人的支援や福祉用具活用なども含めて、周囲の環境をご利用者さまにとって最適なものに調整していきましょう。日常生活上におけるリスクを把握し、適切な改善策を立案します。以下に、その具体的なポイントの一例をご紹介します。

① 転倒リスクの理解と評価

転倒リスクの理解と評価

●入浴

入浴時は、脱衣所への移動、脱衣、洗い場への移動、洗体時の姿勢保持、浴槽への移乗・立ち座りなど、多くの動作が求められ、動作負担や介助負担が大きくなり、転倒のリスクも伴います。適切な手すりの設置や入浴補助用具の導入などの物理的整備に加え、ケアに必要な体制など、人的整備も検討します。

●床材

滑りやすい床材は、特に高齢者の転倒事故を引き起こす原因となります。病気の状態や障がいの状況により、床材を滑りにくい素材に変更することが推奨されます。

●照明

足元が見えにくい照明設計は、特にトイレなど、夜間の移動時に転倒を引き起こす可能性があります。照明の改善や、必要となる場所に追加のライト設置を検討します。

② 医療職との連携

医療職との連携

●医師

定期的な通院による診療を通じて得られる医学的アドバイスに基づいて、リスク管理を行います。

●理学療法士(PT)作業療法士(OT)

ご利用者さまに身体の障がい等がある場合は、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)等の専門家に、日常生活動作能力や生活状況を見てもらい、段差の解消や手すりの配置など、必要な住宅改修のアドバイスをいただくことで、効果的な改修を行うとともに、福祉用具等の活用も検討します。障がいの状況により、言語聴覚士等との連携も検討しましょう。

③ 具体的な改善策の計画と実施

具体的な改善策の計画と実施

●バリアフリーの設計

住環境内のバリアを取り除き、特にキッチンやバスルーム、トイレ、廊下など、頻繁に使用するエリアに手すりを設置するなど、安全対策を強化します。

●緊急時対応の強化

緊急時に迅速に対応できるよう、通報システムの整備や、ご家族やケアチームとの連携体制を確立します。

これらの改善等を通じて、ご利用者さまが安全に自立した生活を送れるよう、環境を整えることができます。医療機関との連携は、これらのリスクを科学的に評価し、最も効果的な改善策を選定するうえで不可欠となります。ケアマネジャーは、ご利用者さまの日々の健康を守るために、住環境の改善に積極的に取り組むことが大切です。そのためには医療機関との連携を強化し、ご利用者さま一人ひとりに適切な住環境を提供するための知識とスキルを身につけましょう。

(2)安全対策とバリアフリー化の具体的な施策

住まいの中には、気付きにくい段差や滑りやすい床で躓いたり、転倒したりする危険が潜んでいます。その安全対策とバリアフリー化は、住環境を改善し、ご利用者さまが安全に自立して生活できるよう支援するための基本です。具体的な施策を計画し、実施する際には、ご利用者さまの既往歴や日常生活動作などの考慮のもと、医療機関の専門家との密接な協議が重要です。以下に、代表的な改善策をご紹介します。

① 段差の解消

段差の解消

足腰が弱い人や身体が不自由になると、ちょっとした段差が躓きや転倒の原因になり、とても危険です。車いすの場合、1cm程度の段差でも乗り越える際には力を要するため、ちょっとした移動が身体的にも精神的にも大きな負担になります。段差がなくなることで移動がスムーズになり、安全性が高まります。バリアフリー化する際は、生活動線を見直し、使用頻度が高い箇所はもちろん、玄関やエントランスなどの段差も見直しましょう。床の高さがフラットになると、見た目的にも空間を広く感じるといったメリットもあります。

【解決策】

居室・廊下・トイレ・浴室・玄関などの敷居を低くしたり、スロープを取り付けて段差を解消

② 手すりの設置

手すりの設置

手すりを設置する場合には、移動の際の転倒防止や移動の補助、身体の支えになることがポイントになります。転倒事故が起こりやすい階段や、段差の大きい玄関、長い廊下や使用頻度の高いトイレ、浴室などを見直してみましょう。玄関やエントランスなどには、段差解消用のスロープ設置と合わせて、手すりがあるとより安心です。手すりを選ぶ際は、手に優しく馴染みやすい形状や、使いやすい位置や設置する高さなどを十分考慮して、安全を確保できるように調節して設置することでより使いやすくなります。なお、住宅改修による固定型の手すりだけでなく、福祉用具の設置型手すりも選択肢として検討すると、状況に応じた柔軟な対応が可能です。

例えば、ベッドまわりや玄関前など、特定の場所における補助が必要な場合には、設置型手すりが有効です。

【解決策】

廊下・トイレ・浴室・玄関などへの手すりの設置

手すりの設置

③ 滑りにくい床材への変更

滑りにくい床材への変更

現在、主流になっているフローリングの床材は、ツルツルとしていてお掃除はしやすい反面、その分滑りやすく、高齢者の方や小さなお子さま、ペットにとっては、転倒やケガの原因につながってしまう危険性があります。床材を変更する際は、転倒やケガを未然に防ぐためにも、滑りにくい床材を選ぶことがポイントになります。湿気が多く滑りやすいバスルームやキッチンは特に注意しましょう。また、最近では足腰の負担軽減にもなる柔らかくてクッション性の高い床材などもありますので、高齢者や障がいのある方が使用する際には、これらの床材を検討すると良いでしょう。

【解決策】

リビング・居室・キッチン・浴室・廊下などの床材の変更

④ 適切な照明の確保

適切な照明の確保

年を重ねると、視覚も衰えてきます。単純に視力が下がり、視界がぼやけるだけではなく、照度(光の明るさ)に対しても鈍くなることで、明るい場所にいても薄暗く感じたり、逆に多少のまぶしさでも目を開けられなくなってしまうなどの弊害が起きたりします。また、高齢の方は深夜トイレに起きる回数も多くなるため、階段や廊下などは、時間帯によって明るさを変えるなどの工夫が必要です。階段や廊下などの常夜灯とともに、人感センサータイプのフットライトなどを活用しましょう。

【解決策】

階段や廊下などの常夜灯やフットライトなどを活用

⑤ 広い動線の確保

広い動線の確保

居室やリビングから玄関・トイレなどの生活動線上において、広い空間を備えておくと、安全で安心な自立した生活を送りやすくなります。特に車いすで介助が必要な方は、車いすとその横や後ろに介助者が移動するスペースが必要となるため、バリアフリー住宅には大切なポイントです。また、扉やドアを引き戸にすることで、車いすの方でも一人で出入りしやすい状態が確保できます。

【解決策】

居室やリビングから玄関・トイレなどの生活動線上は広々としたスペースを確保

(3)自立を支援する住環境の最適化

ご利用者さまが自立した生活を送るためには、住環境のアセスメントが重要です。ご利用者さまが自宅で「どのように暮らしたいか」という目標設定を明確にする必要があります。住環境に関する問題では、当事者には気づかないことも多くあります。住環境の最適化を図るには、まず、ご利用者さまに「何のために行うのか」という、住環境の改善の意義を理解してもらう必要があります。せっかく住宅改修などで住環境を整備しても、その環境を使いこなしてもらわなければ意味がありません。そこで、住環境の整備では、使い勝手を確認するとともに、どのように動作するのかをアドバイスするなどのフォローアップも行いましょう。

ケアマネジャーは、ご利用者さまの生活の質を向上させるために、住宅改修や住環境改善の必要性がありながら、それに気づいていないご利用者さまに対して、その必要性とさまざまな改善策を提示しましょう。以下に、具体的な改善ポイントをご紹介します。

① 動線の整備

自宅内での移動がスムーズに行えるよう、家具の配置などを工夫します。例えば、車いすのご利用者さまのために広い通路を確保し、必要な場所に十分なスペースを設けます。動線上の障害物を取り除き、滑りやすい床材を滑りにくい素材に変更するなど、安全性を高める措置を講じます。

② アクセスしやすい家具の配置

アクセスしやすい家具の配置

収納スペースや家具の高さを調整し、ご利用者さまが無理なく手の届く範囲に必要な物を配置します。扉の開閉や引き出しが容易なデザインの家具を選定し、力を入れずに動作できるようにします。

③ 使いやすい生活支援ツールの導入

使いやすい生活支援ツールの導入

日常生活を便利にサポートしてくれるツールの導入を検討します。例えば、立ち上がりをサポートする椅子をはじめ、簡単に操作できる電気製品などがあります。最近では、携帯端末等のアプリを使用したスマートリモコンを使えば、テレビやエアコン、照明器具などの家電製品を1台で操作できたりします。ご利用者さまの操作状況から専門職の意見を取り入れ、ご利用者さまのニーズに合わせた支援機器を選定します。

④ 医療チームとの連携

医師や理学療法士、作業療法士等と定期的に協議し、ご利用者さまの健康状態や生活の変化に応じた住環境の調整を行います。必要時にケアプランの見直しを行い、最新の医療情報やリハビリテーションの成果などを反映させます。

これらの取り組みを通じて、ケアマネジャーはご利用者さまの自立を支援し、安全かつ快適な住環境の最適化をめざします。医療チームとの連携を強化することで、ご利用者さま一人ひとりの身体状況に合わせた支援を行うことが目標となります。

住環境が健康に与える影響

健康について考えた時、食生活や生活習慣を思い浮かべる方は多いと思いますが、実は住環境もそれらと同等に健康に影響を与えています。室内の温度差などの温熱環境をはじめ、化学物質やハウスダストなどによる空気環境の問題、乾燥・湿度・結露などの湿気の問題、音や電磁波の問題、家庭内での不慮の事故など、健康に関わる住環境の要因はさまざまです。良好な住環境を整えることで、より快適な日々を過ごしたいものです。

●温熱環境

温熱環境

住環境の要因の中でも、室内の温度に関する温熱環境が健康に関わる影響が大きいと考えられており、快適な温熱環境の目安は、温度は冬場で20~23℃、夏場で26~28℃、湿度は40~60%と言われています。住宅の断熱化をはじめ、エアコンや扇風機の使用などにより、こまめな室温調整を行い、温熱環境を整えることで冬場の浴室やトイレなど、室内間の温度差によって起こるヒートショックや、夏場の熱中症の被害を防ぎましょう。

●空気環境

空気環境

室内の空気が汚染されていると、呼吸器系の病気にかかりやすくなります。 空気中のカビや花粉、ウイルスによりのどが痛くなったり、くしゃみが止まらなくなったりします。 さらに症状が進行すると、気管支炎や喘息、肺炎などのリスクも高まります。まずは、室内のアレルゲン(ホコリなど)をお掃除で取り除くのが大切です。加えて、定期的な換気や空気清浄機の使用により、ホコリや花粉、煙などのアレルゲンを除去し、室内の空気環境を向上させます。また、湿気の多い場所ではカビが発生しやすいため、適切な除湿とカビ防止策が必要です。カビは喘息やアレルギーの原因となるため、定期的な清掃と除湿機の使用が推奨されます。

●光環境

日中はできるだけ自然光を取り入れるようにし、夜間は適切な遮光カーテン等を使用します。これによって、体内時計を調整し、自然な睡眠サイクルを維持することができます。また、昼間の明るい光から、夜間のリラックスできる柔らかい光に調光可能な照明を設置することで、視覚的な快適さと心理的な安定をもたらしてくれます。

●音環境

音環境

世界保健機関(WHO)が発表した「欧州騒音環境ガイドライン(2018年)」では、騒音と高血圧や心疾患の因果関係が指摘されており、 不快と感じる音であれば、強いストレスの原因になると言われています。生活に関係する騒音の多くは、空気音にあたります。 そのため、家屋や部屋の気密性を高めて空気音をブロックすれば、騒音をかなりの程度緩和することが可能です。 また、屋外からの騒音の大部分は窓を通して侵入してくるので、騒音対策としては二重サッシで気密性を高める、窓や壁に防音材を使用するなどが効果的です。
[資料出展]社団法人 日本サッシ協会

●空間環境

空間の使いやすさや安全性は、特に高齢者や障がいのある方々の自立を大きく左右します。障害物のないクリアな動線や段差の解消など、バリアフリー化を行うことで転倒防止対策となります。また、必要な場所に手すりや補助具を設置することで、日常生活での快適さと安全性を向上させます。

これらの要素を考慮することで、住環境が健康に及ぼす影響をプラスに変えることができます。良好な住環境を整えることが、健康にどのように貢献するかの理解を深めることで、住環境の改善がいかに重要かを再確認する良い機会となります。健康を維持し、病気のリスクを低減するために、私たちの住む環境に注目してみましょう。

[出展・参考:介護支援専門員実務研修テキスト(下巻)]

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