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ケアマネジャーさんの知恵袋~日々のケアを彩るヒント集~
【Vol.5】本人や家族の心に寄り添う「看取り」

監修:看護師・主任介護支援専門員 
雨師 みよ子

ケアマネジャーさんの知恵袋 ~日々のケアを彩るヒント集~【Vol.5】本人や家族の心に寄り添う「看取り」

看取りは、ご利用者さまとその家族にとって非常に重要な期間です。尊厳を持って最期の時間を過ごしていただくことは、ケアマネジャーにとって重要な支援です。今回は、緩和ケア、心のケア、家族へのサポートを通じて、どのように大切な時期を支えるかについてのアプローチを詳しくご紹介します。

(1)看取りにおけるケアマネジャーの役割と姿勢

高齢期を迎え、老いや衰えが進み人生の終盤を迎えつつある時期に必要な時期を「エンド・オブ・ライフケア」と呼びますが、人によってこの期間が長い方や短い方がいます。介護保険制度では、この「エンド・オブ・ライフケア」の中でも、特に最期の時期にあたるケアのことを「看取り」と呼んでいます。「エンド・オブ・ライフケア」は、本人が主語であるのに対し、「看取り」は、そこに関わる人たちが前提となっています。人生の最終段階で、誰がどのように関わり、その人の最期の瞬間まで支えていけるのか、「看取り」はそこが問われています。

看取りは、わが国の抱える大きな課題の一つです。現在は多くの人が病院で亡くなられていますが、高齢化が進み亡くなる人は今後も増えていきます。しかし、病院の機能分化が進み、病院での看取りが難しくなったことで、看取りの場所は「病院」から、自宅はもとより、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設、サービス付き高齢者向け住宅、グループホーム、ケアハウスなど多岐にわたり、また、死を迎える場所が多様化すると同時に、看取る人も多様化しており、実際の死に立ち会う人は、家族だけではないということが現在の社会状況です。

日本財団の調査(2021年)では、「どこで最期を迎えたいか」との質問への回答を表したグラフ。33.9%が医療施設、4.1%が介護施設、58.8%が自宅と回答。

人生の最期を過ごす住まいのことを「終の棲家」といいますが、日本財団の調査(2021年)では、「どこで最期を迎えたいか」との質問に、約59%の人が自宅と答えています。本人の意向と実際の看取りの場ではギャップがあることがわかります。ケアマネジャーは、ご利用者さま一人ひとりの人生の最期の時期に向けたケアプランを行うにあたり、ご利用者さまの老いと衰えによる状態像をしっかりと理解し、必要となる医療との関わり方を学ぶことは、人生の最期の時期を過ごすご利用者さまが、望む暮らしができるように支援するためにとても重要です。

[出展]日本財団「人生の最期の迎え方に関する全国調査」

ケアマネジャーがご利用者さまや家族と話す様子を表したイラスト。

ケアマネジャーは、看取りのプロセスにおいて、ご利用者さまと家族の架け橋となる重要な役割を担います。在宅での看取りを選択したご利用者さまや家族は、最期の時まで在宅で「生きる」ことを選択したということです。しかし、ご利用者さまや家族は、「どんな経過をたどるのか?」「家族への負担は?」「急変時にはどうしたらいいのか?」など、多くの不安を抱えられていることも事実です。家族が終末期の過程を理解し、心の準備をすることを支援することも、ケアマネジャーにとって重要な役割です。看取りにおいて、どのような医療や介護を望むのか、ご本人の意向を確認する手順を踏みつつ、方針を決定していくことになりますが、その際に一方通行のコミュニケーションになっていないかを確認することが大切です。医師から予後などの説明をしてもらわなければなりません。説明を十分に理解して、ご本人が選択・決定できていたかを確認するとともに、医療職との間だけでなく、家族間でも十分なコミュニケーションが図られるように調整していきましょう。介護保険サービスだけでなく、医療保険制度も理解して、ご本人・家族の意向を正しく聞き出す姿勢とその意向を実現するためのマネジメント力が求められます。

(2)段階的な関わりの変化

医者と看護師のイラスト

老いが進みつつある時期のケアは、死因となる病態によって、たどる過程が大きく異なります。また、複数の病態を抱える高齢者も少なくないため、亡くなるまでの経過や期間を予測することは困難です。しかし、老いとともに確実に身体機能は低下します。また、疾患等による影響が重なり、徐々に衰えが進むと、最終的に死は避けられません。そこで、老化に伴う自然な身体機能の衰えを理解し、適切なサポートを提供できるようにするためにも、医療との関わり方を学ぶことは、とても重要です。

看取りの目的の一つとして、提供されるケアが単なる延命のためではなく、死を目前にしたご利用者さまと家族の身体的・精神的苦痛を和らげ、生活の質を向上させることが挙げられます。いかに、最期の瞬間まで、ご利用者さまや家族が望むように生きられるか、また、そこに関わる人たちが支えることができるかが重要となります。この時期のケアでは、日常生活の質を維持しながら、尊厳ある生活を支援することを中心としたケアマネジメントを行いましょう。

■疾病ごとの特徴

① がんの場合

点滴を打っている女性のイラスト

がんの場合は、肺や肝臓、腎臓などの重要な臓器への転移によって最期を迎えることがあります。そのため身体機能は最終段階でも、ある程度は保たれていることが多く、比較的自立した生活を送ることが可能で、意識もはっきりしているという特徴があります。死亡前1か月から2週間前以降に、急速に身体機能が低下して死に至ります。

[ケアのポイント]

痛みの管理と心理的サポートが中心です。痛みを和らげ、精神的な平穏を保つための対策を講じます。

② 臓疾患の場合

内臓疾患を患う男性のイラスト

内臓疾患は、心不全や呼吸不全、腎不全、肝硬変などで、数年(約2~5年)に及ぶ経過の中で、慢性疾患の状態が急激に悪化(急性増悪)したり、合併症を併発したりという経過を繰り返しながら、次第に身体機能が低下します。悪化や合併症を併発した場合、治療により一時的には改善しますが、徐々に機能レベルが低下していくため、どの時点で看取り(最終段階)に入ったのかが判断しにくいのが特徴です。

[ケアのポイント]

症状の変化に対応しながら、家族のケアを含めた支援が必要です。病状の進行に応じたケアプランの調整が求められます。

③ 認知症や脳血管障害、老衰などの場合

認知症の男性のイラスト

認知症や脳血管障害の場合、数年から10数年という長い経過の中で身体の機能が低下していきます。身体機能が低下していても、内臓機能が保たれている場合、命を落とすことは少なく、機能が低下した状態が長期間続きます。加齢に伴って痩せ、筋肉量の減少とともに、寝たきりの状態になります。いわゆる「老衰」もここに分類されますが、最終的には肺炎などの合併症により死亡する場合が多くあります。

[ケアのポイント]

コミュニケーションの困難を理解し、ご利用者さまの状態に合わせたケアを心がけます。快適な環境を維持することで、ご利用者さまの不安を最小限に抑えます。

(3)在宅生活の支援における課題と対応

不安や恐怖を感じる男性のイラスト。

終末期(人生の最終段階)において、ご利用者さまや家族の心情は大きく揺れ動きます。診断や治療の進行に伴い、今後の生活に対する不安や恐怖、希望の喪失といった感情が生じることが考えられます。これらの感情の変動をしっかりと捉え、適切に対応することは、ご利用者さま本人だけでなく、家族への継続的なサポートを形成する上でも極めて重要です。次に、これらの心の動きがどのように病状の変化と連動し、在宅ケアの課題にどう影響するかを見ていきます。

【A】病状が安定している時期(入院時など)

症状が安定している時期の医師と患者のイラスト

がんの場合、比較的症状が安定している時期は明確ですが、内臓疾患や認知症、老衰などの場合、徐々に身体機能が低下していき、どの時点で看取り(最終段階)に入ったのかが判断しにくいため、日常生活のケアや健康管理に十分留意していく必要があります。

●ご利用者さま・家族との関わり方

病状や予後を告知されたご利用者さまは、死を受け止めるための経過が必要となり、その支援が重要となります。また、家族に対しても告知された病状に関する悩みや不安の解消のための支援を行いましょう。本人に病状を告知していない場合は、告知しない家族の心情を理解し、家族と同じスタンスでの関わり方をします。

●ケアマネジャーの役割

[1]医師から受けた説明を理解しているかを確認する
医師から最終段階であることの説明を受け、ご利用者さまや家族が内容をしっかり理解できているか確認し、予測される予後や病状の変化についての理解を促します。最終段階での看取り場所やキーパーソンの確認、延命処置等の確認も必要です。

[2]ご利用者さまや家族の価値観を確認する
看取りを在宅で希望する場合、ご利用者さまや家族がそれぞれに大切にしたいと思っていることは多様です。ご利用者さまや家族が大切にしたい事や嫌だと思う事を理解し、最期をどう生きるかの支援につなげていきましょう。

[3]アドバンス・ケア・プランニング
将来の状態変化に備えて、病状が安定している時期に、ご利用者さまや家族とケア全体の目標や具体的な治療や療養、ケアの方法について話し合いましょう。また、ご利用者さまや家族の希望に沿えるよう、意思決定支援のため、家族や医療チーム、ケアチームと繰り返し話し合うようにしましょう。

[4]延命治療の確認

延命治療を希望しない男性のイラスト

中心静脈栄養や心肺蘇生、人工呼吸器の装着などの延命治療に対して、生前に「延命治療を希望しない」などの意思確認や、それを記録した「事前確認書」などを作成しましょう。

[5]看取りにおけるキーパーソンの確認
在宅での看取りを行う上では、実際の介護のキーパーソンと、さまざまな治療や介護方針を決定するキーパーソンを確認する必要があります。家族の誰がどのような役割を担うのかを把握し、ご利用者さまが意思表示できなくなった場合に、意思決定についてのキーパーソンを確認しておくことが不可欠です。

6]予測される事態に備えた検討

医師と患者、家族のイラスト

在宅で看取りを行う場合、医療との連携が必要となります。看取りの段階にもよりますが、身体状況が急激に低下する場合もあり、その時に訪問診療を頼むということがないように、この時期に訪問診療や訪問看護導入の必要性を説明して検討します。また、介護する家族の疲弊が強くなる前に、早期の段階から24時間身体介護が可能な訪問介護で医療処置が必要な場合等、訪問看護の回数の検討をし、チーム編成していくことも必要です。

  • ・訪問診療や訪問看護導入の検討
  • ・最期を迎える場所や環境の意向確認
  • ・緊急時の連絡方法の確認
  • ・急変時の対応(救急搬送の有無など)の確認
  • ・予測される予後・病状の変化に応じた訪問看護等の増回の検討
  • ・24時間の支援体制を整えるため、訪問看護師と「緊急時の加算」についての確認

【B】ADL(※)が低下し苦痛が出現する時期

※ADL:日常生活を送るために最低限必要な動作(起居動作・移乗・移動・食事・更衣・排泄・入浴・整容)を指します。

●ご利用者さま・家族との関わり方

自立度が急速に低下したご利用者様のイラスト

看取りにおいては、ADLの自立度が急速に低下することが多いため、医療やサービスが1週間入らないと、ご利用者さまの状態が大きく変わってしまうことがあります。ご利用者さまの状態をきちんと把握することはもちろん、家族の支援のためにも、医療チームから現場についての情報を得て、今後の予測とともにアセスメントした上で、ケアプランの変更を検討しましょう。ADLが低下し苦痛が出現する時期では、その苦痛への治療が加わることになるため、ご利用者さまには直接的な支援と同時に精神的な支援も必要です。また、家族は延命や苦痛の緩和など思いを巡らし、葛藤が起きる時期でもあるため、家族に対する精神的な支援も重要になります。

●ケアマネジャーの役割

[1]ケアチーム内の情報共有
介護スタッフは、家族同様、ご利用者さまの辛そうな状況を強く感じてしまうことになります。この時期は、特にケアチーム内でのコミュニケーションと、ケアの方針を随時確認していくことが必要とされます。また、事前に急変時の対応(救急搬送の有無など)を共有し、どのタイミングで誰に連絡するか、状態の確認方法や連絡方法について、チーム全体で周知を図り、情報提供しましょう。

[2]ケアマネジメント
ケアマネジャーは共有した情報をもとに、ケアプランの変更を行います。ご利用者さまの状態像の変化が急であることも考えられるため、タイムリーにサービス担当者会議を開くことは難しくても、多職種との連絡・調整は不可欠となります。また、ADLが低下する時期は、身体介護が増えるため、介護する家族の身体的・精神的な疲弊が起こります。介護は介護、医療は医療の専門職へと任せ、家族だけができることに専念できるように調整することも大切です。

【C】死期が近づいていることがわかる時期

●ご利用者さま・家族との関わり方

ADLの自立度が急速に低下ご利用者様のイラスト

ご利用者さまのADLの自立度が急速に低下することが多くなるため、ご利用者さまの状態が大きく変化することがあります。

  • ・自発的な活動の低下、食事量の低下、倦怠感の増加
  • ・呼吸苦や痛みが増してくる
  • ・家族や介護職から見て、本人が辛そうだと感じる

身体状況の変化とともに、複数の病状が出現する場合もあるため、その点を踏まえ、訪問看護師とともに、医師からの情報を得て、ケアプランを見直していくことが重要です。また、家族は精神的にも負担が増してくるため、ケアチーム全体で家族の状況や、特に主介護者の状況を把握できるよう、具体的な情報共有が大切です。

●ケアマネジャーの役割

[1]情報の共有
ケアマネジャーは、ご利用者さまの病状の急変が考えられるため、急変時の対応(救急搬送の有無など)を、家族やケアチーム内で共通認識しておきましょう。

[2]ケアマネジメント
この時期にはご利用者さまと家族、ケアチームで、できるだけ頻回に具体的な情報を発信し、ケアチームで共有していくことが必要です。情報の共有は、サービス担当者会議等で確認しましょう。情報共有で大切なことは以下の通りです。

  • ・家族の希望、不安、心配について
  • ・本人の病状の変化
  • ・ADL全般の情報(特に排せつ、皮膚の状態、食事)

【D】死期までが2~3日の時期

●ご利用者さま・家族との関わり方

悲しむ家族のイラスト

ADLの自立度の急速な低下とともに、身体機能も低下します。倦怠感が増し、食事量が減り、ほとんど自発的に動くということがなくなり、本人が辛そうに感じていることから、家族や介護職から見ても、死期が近いことがわかります。傾眠傾向でうとうとする時間が長くなり、だんだんと意識がはっきりしなくなります。死期までが2~3日の時期は、家族の覚悟が現実となって迫ってきます。

●ケアマネジャーの役割

[1]ケアチーム内の情報共有
死期が近いことをケアチーム全体で共有し、医療チームからの情報を共有し、ケアチームとの連携や家族との調整を図ります。

■医療チームとケアチームの役割

▶︎医療チーム

  • ・死が間近にあることを家族が理解しているか、医師の説明を理解しているか確認する
  • ・家族へ死期の身体的変化について伝える
  • ・家族が最期の時間を十分に持てるよう、悔いの残らないように支援する

▶︎ケアチーム

  • ・病状変化の見通しについて、訪問看護師と連携して情報共有しつつ、日々の生活上の支援を行う
  • ・家族が最期の時間を十分に持てるよう、悔いの残らないように配慮する

[2]ケアマネジメント
ケアマネジャーは、ご利用者さまが安楽に過ごせるような支援を調整し、死期が近いことをチーム全体で共有します。状況の変化が時間単位で起こるため、残された短い時間への対応をします。ご利用者さまや家族にとって悔いが残らない、そして満足して「ありがとう」と言える時間になるように配慮しましょう。

[3]亡くなった後の役割
遺族の方にこれまでの介護に対して、肯定的な評価でねぎらいの言葉をかけましょう。また、ケアチームの全員にご利用者さまが亡くなったことを連絡します。看取りの場合、介護ベッドなどを使用している場合が多いため、福祉用具貸与事業者に撤去日の調整を行いましょう。葬儀の日程などを確認し、時間をおいて撤去を行ってもらうように調整することも、家族に対する配慮となります。デスカンファレンス等の実施で、関わりの振り返りを行い、次の看取りケアに活かせるようにしましょう。

多職種連携とチームアプローチ

最期の時を自宅で過ごしたいという意向を叶えるには、特に看取りケアの場合、生活支援のケアプランだけでは実現できません。ご利用者さまの心身の苦痛の緩和だけでなく、家族の心身の負担や経済的負担を考えて看取りの場を決定していくことになります。ケアマネジャーはもちろん、医師や看護師、介護職、薬剤師、歯科医師など、多職種の連携による体制づくりが整ってはじめて在宅での看取りが可能になります。在宅での看取りの実現には、家族や介護サービス等の介護力や24時間体制のケア、医療機関との連携などが必要不可欠となり、多職種がそれぞれの専門知識を活かし、ご利用者さまと家族を一貫して支えられるよう協力します。

多職種連携を表したイラスト

また、看取りにおいては、最期の時までご利用者さまや家族の思いを支えるためにも、医療や介護などの役割分担を明確にしたチームアプローチが重要です。尊厳を保ちながら、日常生活を営むケアプランが必要であり、どのようなチームを編成するかを考えます。ご利用者さまの状態や状況の変化によっても目標は変化するため、分担する役割も変化し、その時その時の状況に応じて必要なチームのメンバーが異なってきます。ケアマネジャーの役割は、ケアプランを通してご利用者さまや家族が望む死を迎えられるよう、終末期をどのように支えるかという関わり方であることを改めて理解し、そのために最適なチームを編成します。また、ご利用者さまに関する情報がケアマネジャーに集まるように調整し、各専門職が役割分担をして、直接の看取りケアにあたるうえで、情報の発信と共有のために、ケアマネジャーが中継基地としてのハブ機能を果たすことが求められます。

[出展・参考:介護支援専門員実務研修テキスト(下巻)]

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