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【Vol.8】 大腿骨頸部骨折(Ⅰ期:手術・退院直後)
― 再び転ばないために、
そして暮らしを立て直すために ―
退院直後の支援の考え方

監修:看護師・主任介護支援専門員 
雨師 みよ子

ケアマネジャーさんの知恵袋 ~適切なケアマネジメント手法~【Vol.8】 大腿骨頸部骨折(Ⅰ期:手術・退院直後)― 再び転ばないために、そして暮らしを立て直すために ― 退院直後の支援の考え方

大腿骨頸部骨折は、高齢者の暮らしを大きく一変させます。転倒をきっかけに手術や入院、リハビリを経て、退院後に再び自宅での生活が始まりますが、それまでの生活にすぐ戻れるわけではありません。骨折術後の痛みや不安、筋力や体力の低下、歩行の不安定さ、そして「また転ぶのではないか」という恐怖感は、退院後の暮らしの中に強く残りやすいものです。本人にとっては、身体が思うように動かないもどかしさだけでなく、自信の低下や役割の喪失感も重なります。また、家族にとっても「また転倒しないか」「どのくらい動いていいか」「何を手伝えばいいか」といった不安から、退院直後の生活には緊張感が生まれます。大腿骨頸部骨折のⅠ期では、何よりもまず「再転倒予防」が重要です。一度骨折を経験した方は、骨折前よりも転倒しやすい状態になっていることが少なくありません。

  • 筋力やバランス能力が十分に回復していない
  • 入院中の安静で身体機能が低下している
  • 手術後の痛みや恐怖心が残っている
  • 自宅の環境が今の身体の状態にあっていない

退院直後は、状態が安定したように見えても、再び不安定になりやすい時期です。

こうした条件が重なることで、退院直後は再転倒のリスクが高くなります。さらに、再び転倒すると、もう一度骨折するだけでなく、本人の意欲や生活機能が大きく落ち込むきっかけにもなります。だからこそこの時期は、「歩けるかどうか」だけでなく、「歩きが暮らしの中で安定しているか」を丁寧に見ていく必要があります。

ただし、退院直後の支援は「転ばないように動かさない」ではありません。大腿骨頸部骨折の支援では、再骨折予防と同時に、生活機能を取り戻すことも大きな目的です。起き上がる、立ち上がる、歩く、トイレに行く、食事をする、入浴する。こうした生活動作を無理のない形で少しずつ取り戻すことが、その後の生活の安定につながります。Ⅰ期では、安全と回復の両方を見ながら、転倒しやすい状態の改善から生活を立て直していく視点が求められます。

(1)退院直後は
「生活が再開しても、まだ不安定な時期」

手術後に退院して自宅に戻ると、本人も家族も「また家で暮らしていけるだろうか」という現実に向き合うことになります。病院では、ベッドの高さや廊下の広さ、トイレや手すりの位置、専門職の見守りなど、生活を支える環境が整っています。
しかし自宅では、寝室からトイレまでの距離、廊下の曲がり角、段差、家具の配置、照明の明度、玄関や浴室のまたぎ動作など、病院とは違う環境条件がたくさんあります。病院ではできていた動作も、自宅では急に難しく感じることがあります。退院直後(Ⅰ期)は、本人もまだ今の身体の状態に慣れておらず、家族もどう支えればいいか手探りの状態であり、生活は安定していないため、実際の生活の中で暮らしを再開する準備を整えていく時期です。

Ⅰ期の支援で大切なのは、「できるか、できないか」だけで判断しないことです。例えば、歩けるかどうかだけでは、実際の暮らしは見えてきません。

  • トイレに行く時に方向転換は安定しているか
  • 夜間の移動ではどうか
  • 立ち上がった直後にふらつきはないか
  • 浴室の出入りはどうか
  • 疲れや痛みで動きが乱れないか

心疾患のⅡ期は「安定しているように見えて不安定さが残る時期」

こうした生活の中の具体的な場面から、退院直後の不安定さがみられることがあります。
また、本人が「自分でできる」と思っていることと、実際に安全にできることにずれがでている場合もあります。逆に、本人は怖がっていても、少し支えがあればできることもあります。退院直後は結果だけではなく、生活の中での動ける状態を丁寧に見ることが大切です。

(2)再骨折予防の支援は、
転倒の背景を生活の中で見ることから始まる

Ⅰ期で支援の柱になるのは、再骨折の予防です。ただし、「転倒しないように気をつけましょう」というだけでは、実際の生活にはつながりません。転倒には必ず生活の中の背景があります。

  • 立ち上がる時にふらつく
  • 床に物が多くてつまずきやすい
  • 夜間に急いでトイレへ行こうとする
  • 段差をまたぐ際に足が上がりにくい
  • 痛みで体重移動が不安定になる
Ⅰ期で支援の柱になるのは、再骨折の予防です。

こうした生活の中の行動から環境の具体的な場面に目を向けることが、再骨折予防の支援には欠かせません。

また、大腿骨頸部骨折では、骨折の背景に骨粗しょう症があることも少なくありません。
そのため、再骨折予防では「転倒を防ぐこと」と同時に、「骨が弱くなっている状態にどう対応していくか」も意識する必要があります。骨そのものの治療は医療の領域ですが、介護や生活支援の場面でも、栄養状態や転倒しにくい身体づくり、暮らし方を支えることは重要です。ここで大切なのは、再骨折予防を単なる「禁止」の支援にしないことです。「危ないからやめる」「動かないほうがいい」としてしまうと、活動量が減り、筋力やバランス能力が落ち、結果としてまた転倒しやすくなります。再骨折予防では、生活の中のリスクを減らしながら、必要な動きを続けられるようにすることが重要です。

さらに、転倒予防では身体機能の見方も大切になります。反射や予測、姿勢の立て直し、方向転換、足の運び、片脚支持の不安定さなど、歩行や移動に関わる身体の反応が低下していることがあります。本人が「気をつけて歩く」だけでは補いきれない部分もあるため、身体の特徴を踏まえながら、行動しやすい環境で無理のない支え方を考える必要があります。再骨折予防では、転倒しやすい身体と生活の条件をどう支えるかが大事になります。

(3)疼痛への配慮は
「動ける生活」を支えるためにも重要

手術後から退院直後にかけては、痛みへの配慮も重要な支援になります。大腿骨頸部骨折では、骨折そのものや手術の影響で痛みが残ることがあり、その痛みが動作の不安定さや活動量の低下につながります。歩くと痛い、立ち上がるとこわい、向きを変えると違和感がある。こうした感覚があると、本人は必要以上に身体をかばい、動きが小さくなったり、重心移動が不自然になったりして、転倒につながります。痛みは単なる苦痛ではなく、生活機能の回復を妨げる要因にもなりやすいのです。

服薬と疾患理解は、落ち着いてきた時期ほど見直しが必要になる

また、痛みが強いと、本人は「動かないほうがいい」と思いがちになります。
それ自体は自然な反応ですが、過度に活動を避けることで筋力や体力が落ち、フレイルとなりADLの再建が難しくなることもあります。痛みがあることを前提にしながら、「今の状態でどこまでなら安全に動けるか」「どうすれば不安が少なくなるか」を整理していく必要があります。痛みの支援とは、痛みをゼロにするだけでなく、痛みの程度やどの動作での痛みかの判断と痛みがあっても生活を続けられる形を考えることでもあります。本人が「痛いから何もできない」ではなく、「不安はあるけれど、ここまではできる」と思えるように支えることが重要です。

(4)歩行の回復は「歩けるようになること」より
「生活の中で安定すること」

Ⅰ期では、歩行機能の回復が大きなテーマになります。
できるだけ早く歩けるようになってほしい、歩行能力を戻したい、と考えるのは自然なことです。しかし、本当に大切なのは、単に歩ける距離を伸ばすことではなく、生活の中で安定して移動できることです。例えば、廊下をまっすぐ歩けることと、トイレ前で方向転換できることは別の課題です。

歩行器や杖を使えば進めるけれど、狭い場所では不安定になることもあります。ベッドから立ち上がった直後、疲れている夕方や夜間の移動など、環境から生活の中では歩行の条件が毎回異なります。歩行機能の回復は、「訓練として歩けるか」だけでなく、「暮らしの中で安全に歩けるか」を見ることが重要です。

歩行機能の回復が大きなテーマ

また、心理的な不安が歩行に影響することも少なくありません。「また転ぶのではないか」という恐怖心が強いと、身体がこわばって歩幅が小さくなり、かえってバランスを崩しやすくなることがあります。逆に、本人が焦って「もう歩けるはず」と無理をすると、疲労や不安定な動きにつながります。歩行支援では身体機能だけでなく、本人の不安等の心理的な状態も含めて考えることが必要です。退院直後の歩行回復は、身体と気持ちの両方を支える視点が大切になります。

(5)ADL・IADLの再建は「元通り」より
「今の暮らしに合わせて整える」

退院直後の支援では、ADL・IADLをどう再建するかも重要です。食事、排泄、着替え、入浴、移動といった基本的な日常生活動作に加え、買い物、調理、洗濯、掃除などの手段的日常生活動作も、骨折後の暮らしでは大きく影響を受けます。ただし、この時期に大切なのは、「元の生活通りに戻すこと」だけを目標にしすぎないことです。むしろ、今の身体の状態で、どのように暮らしを成り立たせるかを考えることが重要です。

例えば、入浴は以前のようにできなくても、まずは清潔を保てる方法を考えることが必要です。排泄も自分で行える部分と支えが必要な部分を分けて考えることで、本人の力を活かしやすくなります。ADL・IADLの再建とは、「失った機能を整えること」ではなく、今の生活をどう組み直すかを考えることでもあります。その視点があると、支援は「できないことへの対応」だけでなく、「生活を再現できる支え」に変わっていきます。

退院直後の支援では、ADL・IADLをどう再建するかも重要

(6)栄養・休養・身体全体の回復も、
生活再建の土台になる

Ⅰ期では、歩行や動作に目が向きやすい一方で、栄養や休養もとても大切です。骨折や手術を経験した身体は、体力も消耗しています。入院中の活動量低下により筋力が落ち、食欲が低下している方もいます。そのような状態で、動作の回復だけを急いでも、身体はついてきません。生活機能を取り戻すためには、まず身体全体の回復が必要です。そのため、食事がしっかりとれているかの栄養状態や、体重が落ちすぎていないか、十分に休息が取れているかといった視点も欠かせません。

歩行や動作に目が向きやすい一方で、栄養や休養もとても大切

また、疲労が強いと日中の活動が減るだけでなく、動作そのものが不安定になりやすくなります。 少し動いただけで疲れてしまうと、立ち上がりや移動の質も落ち、結果として転倒リスクが高まることがあります。この時期は、「動くこと」と同様に「休むこと」も支援として大切です。十分に休息できる生活の流れを整えること、疲れを溜めすぎないように活動の量を見ながら進めることが、結果としてフレイル予防につながります。Ⅰ期では、骨だけでなく、身体全体の回復を支えることが、生活再建の土台になります。

(7)役割や社会参加の回復も、
早い段階から視野に

退院直後は、安全な生活を整えることが中心になりますが、「この先、どんな生活を取り戻したいのか」を知っておくことは大切です。大腿骨頸部骨折によって失われやすいのは、移動の力だけではありません。家の中での役割、家事への参加、買い物や外出、近所とのつながりなど、その人の暮らし全体が狭くなりがちです。そのため、退院直後の時点から、単に「動けるようにする」だけでなく、「どんな暮らしを再び支えたいのか」を支援者が意識しておくことが大切です。本人がどの役割を大切にしていたのか、何を続けたいと思っているのかを知ることで、その後の支援の方向性も変わってきます。


例えば、「買い物に行きたい」「家の中のことは自分でやりたい」「人と会う機会を持ちたい」といった思いがあるなら、それは大切な目標になります。退院直後はまだそこまで到達できなくても、生活の再建を考えるうえで、その目標を見失わないことが重要です。大腿骨頸部骨折の支援では、転倒予防や動作回復が中心になりますが、最終的に大切なのは、その人らしい生活や役割をどう取り戻すかということです。その意向の視点を持っているかどうかで、生活支援の組み立て方も変わってきます。

その人らしい生活や役割をどう取り戻すかということ

(8)福祉用具は
“生活を再開するための一部”として

退院直後の支援では、福祉用具や住宅改修等が役立つ場面が多くあります。ただし、ここでも大切なのは、福祉用具を主役にしないことです。目的はあくまで、本人が安全に生活を再開し、必要な動作を無理なく続けられるようにすることです。歩行や立ち上がり、移動、排泄、入浴など、生活の中で負担や危険が大きい場面を整理したうえで、その一部として福祉用具を位置づけることが大切です。高機能であることよりも、本人の今の状態と暮らしにあっていることが重要です。

「歩けるかどうか」だけでなく、「歩きが暮らしの中で安定しているか」を丁寧に見ていく必要があります。

また、福祉用具だけで暮らしを支えるのではなく、家の動線や家具配置、家族の支え方、本人の不安の程度も含めて考える必要があります。つまり、福祉用具は「生活全体を整える中の一つの方法」であって、それだけで支援が完結するわけではありません。この視点を持つことで、福祉用具は単なる物ではなく、「今の生活を安定させるための支え」として位置づけやすくなります。

大腿骨頸部骨折の退院直後は
「歩ける」より「安心して暮らせる」が大切

退院時に「歩けるようになりました」と言われると、つい安心してしまいがちですが、歩けることと、安心して暮らせることは同じではありません。

立ち上がる時に不安はないか、夜間のトイレは大丈夫か、疲れたときに動きが乱れないか、家の動線に無理はないか。大腿骨頸部骨折の退院直後で本当に大切なのは、生活の中で安全に安定して動けるかどうかです。歩ける距離や回数だけでなく、暮らしの場面での安全な動作を見ていくことが、再骨折予防と生活再建の土台になります。

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