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監修:看護師・主任介護支援専門員
雨師 みよ子
認知症の支援というと、「物忘れへの対応」や「困った行動への対応」を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし実際の支援の現場では、それだけでは十分ではありません。認知症のある方の暮らしを見ていると、最初に表れやすいのは、「生活の中の小さな変化」です。これらの変化は、一つひとつを見ると些細なことのように思えるかもしれませんが、本人にとっては、生活のしづらさが少しずつ広がっているサインでもあります。認知症ケアでは、このような変化を「問題」としてではなく、「生活の変化」として丁寧に捉え、1人の人間として尊厳が保たれるように関わることが支援の第一歩になります。
認知症ケアが難しいといわれるのは、変化が急激ではなく、少しずつ進むことが多いからです。また、同じ診断名であっても、生活の状態や困りごとは一人ひとり異なります。さらに、周囲から見ると理解しにくい行動にも、その人なりの理由や困りごとが隠れていることがあります。つまり認知症ケアの難しさは、「正解が一つではないこと」「表面だけでは原因が見えにくいこと」「生活や環境の影響を強く受けること」にあります。だから、認知症の支援では、診断名や行動の表面だけを見るのではなく、「その人の暮らし全体をどう見るか」がとても重要になります。
認知症のある方への支援とは、その人がどのように暮らし、どこで困り、何が続けられていて、何に不安を感じているかを見極めていくことです。
たとえば、「何度も同じことを聞く」という行動でも、単に記憶の問題として捉えれば、「また同じことを言っている」で終わってしまいます。しかし、その背景に「今の状況がよくわからず不安」「予定が理解しにくく安心できない」といった気持ちがあると考えると、支援の方向は変わってきます。
認知症ケアでは、行動を止めようとする前に、その行動の背景にある困りごとや不安に目を向け、敬意を払い、尊重することが欠かせません。
認知症の支援では、生活の変化に気づくことが出発点になります。認知症の初期には、いわゆる“わかりやすい症状”よりも前に、生活の中の小さな変化として表れることが少なくありません。
こうした変化は、「年齢のせい」や「疲れているから」と見過ごされがちですが、支援の視点で見ると、本人が生活の中で感じている「しづらさ」の表れであることがあります。
大切なのは、それをすぐに「問題」と決めつけないことです。たとえば、外出が減った場合に、「出かけなくなった」とだけ捉えるのではなく
大切なのは、それをすぐに「問題」と決めつけないことです。たとえば、外出が減った場合に、「出かけなくなった」とだけ捉えるのではなく、
といった背景を整理し、適切な社会参加の支援を通じて生きがいを見い出せるようにする必要があります。
また、会話のテンポが変わった際にも、
と背景を考えることで、支援の方向は変わります。
認知症ケアでは、表れている変化を単なる困りごととして処理するのではなく、その変化が何を意味しているのかを生活の中で見ていくことが大切です。 言葉だけでなく、表情や身振り手振りなどを含めた全身的なコミュニケーションを意識しながら、その変化が何を意味しているのかを生活の中で見ていくことが大切です。
さらに、この「気づき」は、早い段階で支援につなげるためにも重要です。認知症のある方の暮らしは、小さな変化が積み重なって不安定になっていくことが多くあります。「まだ大丈夫」「そのうち慣れるだろう」と見過ごさず、生活の中の変化に気づき、必要な支えを少しずつ整えていくことが、その後の生活の安定につながります。認知症ケアにおいて「気づき」が大切なのは、本人の変化を早く見つけるためだけではなく、本人や家族の負担も、支援の難しさも小さいうちに整えやすくなるというメリットもあるのです。
認知症のある方の支援で特に重要なのが、「行動の背景を考える」ことです。周囲から見ると理解しにくい行動も、本人にとっては困りごとの表れであることが少なくありません。
こうした行動だけを見ると「困った行動」と受け取られがちですが、その行動だけを止めようとすると支援はうまくいきません。大切なのは、その行動が「なぜ起きているのか」を考えることです。
たとえば、「何度も同じことを聞く」のは、単に覚えられないからとは限りません。
のかもしれません。
また、「怒りっぽくなる」場合も、性格の問題として片づけるのではなく、
といった可能性があり、背景にはいくつもの理由が考えられます。
このように、認知症の方の行動は、困りごとの表現として捉えることが大切です。行動を止めることだけを目的にすると、本人の不安や混乱は置き去りになってしまいます。しかし、背景にある困りごとを理解しようとすると、「何を整えれば安心につながるか」が見えてきます。たとえば、何度も確認する背景に不安があるなら、わかりやすい伝え方や見通しの持てる関わりが必要かもしれません。夜間の移動に混乱があるなら、生活リズムや環境の見直しが必要かもしれません。認知症ケアでは、行動は「困らせるもの」ではなく、「何かがうまくいっていないサイン」として見ることが重要です。
認知症の支援では、どうしても「できなくなったこと」に目が向きがちです。
こうした対応は、確かに安全面や効率を考えると必要な場面もあります。しかし、それが続くと、本人が本来持っている力まで失われてしまうことがあります。認知症のある方でも、できることは多く残っています。その力をどう活かし、どう守るかが、生活の質を保つうえでとても重要です。
たとえば着替えの場面で、全部を介助してしまえば確かに早く終わるかもしれません。しかし、本人が袖を通し、ボタンに手をかけ、順番を声かけで思い出すといった「できる部分」が残っているならば、そこは活かす関わりが本人の力を守ることにつながります。全部を補うのではなく、どこまでできるかを見極めて、難しいところだけを支える視点が大切です。
また、認知症の方は、言葉かけ一つで動きやすさが変わることもあります。「次は何をするの?」と問いかけるより、「次はこれですね」と具体的に物を示すほうがスムーズに動けることがあります。つまり、「できることを守る支援」とは、本人に無理をさせることではなく、今ある残存機能を活かし、力を発揮しやすいように環境や関わり方を整える自立支援でもあるのです。
この視点は、自立支援とも深く関わります。認知症だからといって、すべてを支援するのではなく、本人の残存機能をどう活かすかという視点が大切です。過度な支援は、一時的には安全でも、長い目で見ると活動量や意欲の低下につながることがあります。認知症のある方への支援では、「できないことを補う」だけではなく、「できることを活かし続ける」視点を持つことが、生活の質を支える上でとても大切です。
認知症の支援では、本人の力だけで何とかしようとするのではなく、環境を整えることで生活を支えるという考え方がとても重要です。認知症になると、新しいことを理解したり、状況を判断したりすることが難しくなる場面があります。そのため、環境がわかりにくいと、不安や混乱が強くなりやすくなります。
こうしたことは、本人にとって大きな生活のしづらさになります。 一方で、認識しやすい環境は安心感につながります。
こうした工夫は、認知症のある方にとって「自分でわかる」「自分で動ける」ことを支える助けになります。環境調整は、症状を抑えるための特別な対策ではなく、生活をわかりやすくし、安心して暮らせるようにする支援です。認知症のある方が「できることを守る」ためにも、環境が大きな支えになるのです。
また、生活リズムを整えることも重要です。起床や食事、就寝時間がばらばらになると、混乱が強くなりやすいことがあります。昼夜逆転や日中の活動量の低下は、不安や落ち着きのなさにもつながるため、暮らしの流れそのものを整え、本人がストレスと感じやすい環境を改善していくことが大切です。日中に活動の機会があり、食事や睡眠の流れが安定していることは、本人にとって大きな安心感につながります。
認知症の支援では、本人だけでなく家族も大切な対象です。家族は日々の生活を支える大きな存在ですが、その分、不安や負担を抱えやすくなります。
こうした悩みを抱えながら、家族は毎日の暮らしを支えていることが少なくありません。家族が特につらさを感じやすいのは、本人の行動の意味がわからない時です。「なぜ同じことを何度も言うのか」「なぜ急に怒るのか」「なぜ落ち着かないのか」その背景が見えないと、家族は「わざとやっているのではないか」と戸惑い、精神的に追い詰められてしまいます。
そのため家族支援では、ただ「こうしてください」と対応方法を伝えるだけでなく、その行動の背景を一緒に理解していくことが大切です。「こういう理由で不安が強くなっているのかもしれません」「こういう関わりをすると安心されやすいですよ」といった丁寧な説明があることで、家族の捉え方や心のゆとりは大きく変わってきます。
また、家族が一人で抱え込まないことも大切です。認知症の支援は、一人で何とかするものではありません。 大切なのは、本人や家族と信頼関係を構築し、それぞれの意向を尊重した支援を行うことです。ケアマネジャー、医療職、介護職、そして家族などが、共通の視点を持って支え合い、家族が一人で抱え込まない体制をつくることが欠かせません。本人や家族にとっても、「相談できる」「気持ちを共有できる」場所があることは大きな安心につながります。認知症ケアでは、本人を支えることと、家族を支えることは切り離せません。家族が安心して笑顔で関われる環境を整えることこそが、本人の生活の安定にも直結していきます。
認知症の支援でも、福祉用具は非常に役立ちます。ただし、ここでも大切なのは、福祉用具を主役にしないことです。あくまで目的は、本人の生活や身体機能を支え、維持・向上させることにあります。
まずは福祉用具を検討する場合も、「便利そうだから」ではなく、「その人の生活に合っているか」「安心につながるか」という視点が必要です。
認知症ケアの中心は、やはり行動の背景を理解すること、生活の変化に気づくこと、そして環境や関係性を整えることにあります。福祉用具はそのケアを補い、可能性を広げるための「大切な手段の一部」として位置づけるのが良いでしょう。
認知症のある方の行動は、周囲から見ると理解しにくいこともありますが、その行動の多くは、本人の困りごとや不安の表れです。「何度も同じことを聞く」「夜に動き回る」「怒りっぽくなる」といった姿の背景には、本人なりの混乱や戸惑いがあります。
行動の表面だけを見ると「困った人」と映ってしまいますがその背景に目を向けると「困っている人」に見え方が変わります。この見方の違いこそが、支援の方向を大きく変えるのです。認知症ケアでは、行動を止めようとする前に、その背景にある困りごとを理解しようとすることが何よりも大切です。
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