現在、介護・福祉の人事支援事業に取り組む秋本可愛さん。実は、自身も大切な人の変化に戸惑った経験があります。
秋本さんが大学生の頃、父親の病気による変化に直面。当時は知識不足から必要以上に重く受け止めてしまい、適切な対応ができなかったのだそうです。
これまでの経験もふまえて、秋本さんは「介護を家族だけで抱え込まないこと」の重要性を強調します。自らを犠牲にしてまで介護をすると、家族の関係性が悪くなってしまうことも。だからこそ、自分の生活も大切にしながら、可能な範囲で介護に関わるのがいいのだそう。
そこで頼りになるのが、介護職の人たちです。介護職というと、入浴や食事の介助をする人という印象が強い方もいるかもしれません。しかし、秋本さんは介護職の役割はそれだけではないと言います。
「介護とは本来、“暮らしを支える”こと。身体的なケアはもちろんですが、その方がどう生きてきて、何が好きで、どんなことに幸せを感じるのか、といったことまで知っていきながら、これからの暮らしをより心地良いものにしていくサポートをするのが介護職の仕事です。」(秋本さん)
そうした専門家の力を借りるために、大切な人の変化に気づいたら、まず「地域包括支援センター」に相談することを秋本さんは勧めます。ここでは、状況に応じた制度やサービスの紹介を受けることができます。
さらに秋本さんは、大切な人との日常的なコミュニケーションも重要だと教えてくれました。「お金の備え」や「健康状況」、「介護が必要になったらどうしたいのか」などを確認しておくと、いざというときに困らずにすむかもしれません。
大切な人の変化に向き合い続けることは、体力の面でも、気持ちの面でも、決して簡単ではないこと。時には怒りや悲しみなどの感情が湧いてくることもあるでしょう。しかし、その感情を無理に否定する必要はないと秋本さんは言います。
「もし爆発しそうな瞬間が来たら、頑張りすぎているサインだと思った方がいい。自分の時間をつくってやりたいことをするとか、第三者をもっと頼るとか。そういう選択肢を、自分の中にいくつか持っておけるといいのかなと思います。」(秋本さん)
介護は捉え方次第では人生において大事な経験になるということも、秋本さんは最後に教えてくれました。
「介護を通して知る相手のことって、実はたくさんあると思うんです。たとえば、離れて暮らしている親子で、お互いにバリバリ働いていたら、会えるのは年に2~3回だったりもするじゃないですか。私自身、大切な人とコミュニケーションをとるべきだと言いながら、よく考えたら親が今までやってきたこととか、何が好きなのかとか、どう残りの人生を過ごしたいかとか、親のことをまだまだ全然知らないんですよね。いざ介護が始まると、単純に関わる時間も増えるし、第三者に頼りながらだったら、少し余裕を持って本人と会話をする時間が持てるようになる。大変だと思われがちな介護ですが、“大切な人のことをもっと知れる時間”だと捉えられると、ちょっと面白くなるのかなと思っています。」(秋本さん)
いつか直面する親の介護に対して、不安になることもあるでしょう。けれど、まわりには頼れる人や、制度が存在している。それらを知った上で、しっかりと準備しておけば、介護はあらたな関係性のきっかけになることもあるのです。
訪問看護師であり写真家でもある尾山直子さんは、さまざまな人の暮らしやいのちが閉じる瞬間に寄り添い続けてきた方。そんな尾山さんに、「大切な人の最期とどう向き合うか」について聞きました。
まず、尾山さんが教えてくれたのは、老いや死は突然やってくるものではなく、日々の変化の先にいのちの終わりがあること。そして、旅立つまでのプロセスは人それぞれだということです。
たとえば、自然な老いや認知症では身体の機能が少しずつ衰えていき、癌の場合は直前まで身体の機能が保たれる傾向があるそう。このように「誰もが“老いの途中”にいて」、「旅立ち方は人それぞれ」なのだという視点は、大切な人の突然の変化に戸惑わないためにも重要です。
また尾山さんは、血縁関係がなくても「家族」と呼べるくらい、人の最期に真摯に向き合い、支えてくれる人たちがいるといいます。たとえば、看護師や医師、介護職の方たちなど。大切な人の変化に対する戸惑いをひとりだけで抱えることなく、わかちあえる人がいるのです。
さらに、本人の思いを尊重してケアの方針を決めるために、自分の意思で選択できるうちに、今後のことを話し合っておくことも重要。そこで役立つのが、どんな医療やケアを望むのか、最期の時間をどう過ごしたいのかなど、家族や医療・介護の担当者と繰り返し話し合う「ACP(アドバンス・ケア・プランニング、人生会議)」です。
尾山さんが制作にかかわった、在宅療養のためのガイドブック『LIFE これからのこと 在宅療養・ACP(アドバンス・ケア・プランニング)ガイドブック』には、どんな専門家に頼れるのか、ACPをどのように進めるのかのヒントになるページがあるので、ぜひ参考にしてみてください。
大切な人のいのちの終わりが迫っている状況に直面すれば、戸惑うのは当たり前のこと。けれど、あらかじめ本人の希望を話し合ったりして、“大切な人の最期を受け入れるための心”を耕しておくことができれば、戸惑う時間を「のこされた時間を、相手とどう過ごしたいのか」をより考えていけるかもしれません。
そして、“大切な人の最期を受け入れるための心”を耕しておくことができれば、いのちの終わりに向き合う時間は、悲しいだけの経験ではなくなることもあるのです。
「介護も看取りも、ケアする側が一方的に与えることばかりじゃないんです。老いて、いのちを閉じていく。誰もがいつかは辿るその道のりを、先に歩んでいる人たちが、全身を使って私たちに教えてくれているということだから。
それに対して目をそらさず向き合うことは、本当に大きな学びになるし、いのちの終わりを受け入れる土壌をもつ人になることは、人間としての成長につながる。相手から受け取ることもたくさんあるんですよね。」(尾山さん)