INTERVIEW

大切な人の変化に
戸惑ったとき、どうすれば?

福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉企画
大切な人の変化に戸惑ったとき、
どうすればいいのだろう?
たとえば最近親のもの忘れが増えたとき、
以前よりも怒りっぽくなったとき、
病気がわかったとき、突然倒れてしまったとき。

本人がどう生きたいか、どうしていきたいかを尊重したい。
けれど、大切な人であるがゆえに面と向かって
そういう話をするのには勇気がいる。
また支えるために、自分だけでがんばるのはしんどい。
「大切な人の変化との向き合い方」をテーマに
おふたりの方へ話を伺いました。
INTERVIEW
1

暮らしを支える介護職を頼ること

株式会社Blanket 秋本可愛さん

現在、介護・福祉の人事支援事業に取り組む秋本可愛さん。実は、自身も大切な人の変化に戸惑った経験があります。
秋本さんが大学生の頃、父親の病気による変化に直面。当時は知識不足から必要以上に重く受け止めてしまい、適切な対応ができなかったのだそうです。

これまでの経験もふまえて、秋本さんは「介護を家族だけで抱え込まないこと」の重要性を強調します。自らを犠牲にしてまで介護をすると、家族の関係性が悪くなってしまうことも。だからこそ、自分の生活も大切にしながら、可能な範囲で介護に関わるのがいいのだそう。

そこで頼りになるのが、介護職の人たちです。介護職というと、入浴や食事の介助をする人という印象が強い方もいるかもしれません。しかし、秋本さんは介護職の役割はそれだけではないと言います。

「介護とは本来、“暮らしを支える”こと。身体的なケアはもちろんですが、その方がどう生きてきて、何が好きで、どんなことに幸せを感じるのか、といったことまで知っていきながら、これからの暮らしをより心地良いものにしていくサポートをするのが介護職の仕事です。」(秋本さん

そうした専門家の力を借りるために、大切な人の変化に気づいたら、まず「地域包括支援センター」に相談することを秋本さんは勧めます。ここでは、状況に応じた制度やサービスの紹介を受けることができます。

さらに秋本さんは、大切な人との日常的なコミュニケーションも重要だと教えてくれました。「お金の備え」や「健康状況」、「介護が必要になったらどうしたいのか」などを確認しておくと、いざというときに困らずにすむかもしれません。

大切な人の変化に向き合い続けることは、体力の面でも、気持ちの面でも、決して簡単ではないこと。時には怒りや悲しみなどの感情が湧いてくることもあるでしょう。しかし、その感情を無理に否定する必要はないと秋本さんは言います。

「もし爆発しそうな瞬間が来たら、頑張りすぎているサインだと思った方がいい。自分の時間をつくってやりたいことをするとか、第三者をもっと頼るとか。そういう選択肢を、自分の中にいくつか持っておけるといいのかなと思います。」(秋本さん

介護は捉え方次第では人生において大事な経験になるということも、秋本さんは最後に教えてくれました。

「介護を通して知る相手のことって、実はたくさんあると思うんです。たとえば、離れて暮らしている親子で、お互いにバリバリ働いていたら、会えるのは年に2~3回だったりもするじゃないですか。私自身、大切な人とコミュニケーションをとるべきだと言いながら、よく考えたら親が今までやってきたこととか、何が好きなのかとか、どう残りの人生を過ごしたいかとか、親のことをまだまだ全然知らないんですよね。いざ介護が始まると、単純に関わる時間も増えるし、第三者に頼りながらだったら、少し余裕を持って本人と会話をする時間が持てるようになる。大変だと思われがちな介護ですが、“大切な人のことをもっと知れる時間”だと捉えられると、ちょっと面白くなるのかなと思っています。」(秋本さん)

いつか直面する親の介護に対して、不安になることもあるでしょう。けれど、まわりには頼れる人や、制度が存在している。それらを知った上で、しっかりと準備しておけば、介護はあらたな関係性のきっかけになることもあるのです。

福祉をたずねるクリエイティブマガジン『こここ』
「大切な人の変化に戸惑ったとき、どうすれば? 株式会社Blanket 秋本可愛さんをたずねて」
より引用 【タイアップ記事】
秋本可愛
株式会社Blanket 代表取締役 /KAIGO LEADERS 発起人

平成2年生まれ、山口県出身。大学時代に、介護現場でのアルバイトを通し「人生のおわりは必ずしも幸せではない」現状に課題意識を抱き、2013年(株)Join for Kaigo(現、(株)Blanket)設立。「全ての人が希望を語れる社会」を目指し介護・福祉事業者に特化した採用・育成支援事業「KAIGO HR」を運営。日本最大級の介護に志を持つ若者コミュニティ「KAIGO LEADERS」発起人。Yahoo!ニュース公式コメンテーター。2021年よりNHK中央放送番組審議会委員に就任。2022年 株式会社土屋 社外取締役就任。同年より厚生労働省「介護のしごと魅力発信等事業:事業間連携等事業及び情報発信事業」企画委員就任。

【受賞歴】第10回若者力大賞受賞、第11回ロハスデザイン大賞2016ヒト部門準大賞受賞、Asia Pacific Eldercare Innovation Awards 2021」INNOVATION OF THE YEAR – CAREGIVER MODEL 部門にて最優秀賞受賞
INTERVIEW
2

「最期の時間をどう過ごしたいか」は、
これまでの人生から見えてくる

写真家・訪問看護師 尾山直子さん

訪問看護師であり写真家でもある尾山直子さんは、さまざまな人の暮らしやいのちが閉じる瞬間に寄り添い続けてきた方。そんな尾山さんに、「大切な人の最期とどう向き合うか」について聞きました。

まず、尾山さんが教えてくれたのは、老いや死は突然やってくるものではなく、日々の変化の先にいのちの終わりがあること。そして、旅立つまでのプロセスは人それぞれだということです。

たとえば、自然な老いや認知症では身体の機能が少しずつ衰えていき、癌の場合は直前まで身体の機能が保たれる傾向があるそう。このように「誰もが“老いの途中”にいて」、「旅立ち方は人それぞれ」なのだという視点は、大切な人の突然の変化に戸惑わないためにも重要です。

旅立ち方は人それぞれ。だが、病気によって傾向はある。(医療法人社団プラタナス 桜新町アーバンクリニック発行『人のさいご』p.8)

また尾山さんは、血縁関係がなくても「家族」と呼べるくらい、人の最期に真摯に向き合い、支えてくれる人たちがいるといいます。たとえば、看護師や医師、介護職の方たちなど。大切な人の変化に対する戸惑いをひとりだけで抱えることなく、わかちあえる人がいるのです。

さらに、本人の思いを尊重してケアの方針を決めるために、自分の意思で選択できるうちに、今後のことを話し合っておくことも重要。そこで役立つのが、どんな医療やケアを望むのか、最期の時間をどう過ごしたいのかなど、家族や医療・介護の担当者と繰り返し話し合う「ACP(アドバンス・ケア・プランニング、人生会議)」です。

尾山さんが制作にかかわった、在宅療養のためのガイドブック『LIFE これからのこと 在宅療養・ACP(アドバンス・ケア・プランニング)ガイドブック』には、どんな専門家に頼れるのか、ACPをどのように進めるのかのヒントになるページがあるので、ぜひ参考にしてみてください。

大切な人のいのちの終わりが迫っている状況に直面すれば、戸惑うのは当たり前のこと。けれど、あらかじめ本人の希望を話し合ったりして、“大切な人の最期を受け入れるための心”を耕しておくことができれば、戸惑う時間を「のこされた時間を、相手とどう過ごしたいのか」をより考えていけるかもしれません。

そして、“大切な人の最期を受け入れるための心”を耕しておくことができれば、いのちの終わりに向き合う時間は、悲しいだけの経験ではなくなることもあるのです。

「介護も看取りも、ケアする側が一方的に与えることばかりじゃないんです。老いて、いのちを閉じていく。誰もがいつかは辿るその道のりを、先に歩んでいる人たちが、全身を使って私たちに教えてくれているということだから。

それに対して目をそらさず向き合うことは、本当に大きな学びになるし、いのちの終わりを受け入れる土壌をもつ人になることは、人間としての成長につながる。相手から受け取ることもたくさんあるんですよね。」(尾山さん)

福祉をたずねるクリエイティブマガジン『こここ』
「大切な人の変化に戸惑ったとき、どうすれば? 写真家/訪問看護師 尾山直子さんをたずねて」
より引用 【タイアップ記事】
尾山直子
看護師/写真家

1984年埼玉県生まれ。「桜新町アーバンクリニック」在宅医療部にて訪問看護師、広報として勤務。高校で農業を学んだのち看護師の道に進み、複数の病院勤務を経て2012年より現職。訪問看護師の勤務の傍ら、2020年京都造形芸術大学美術科写真コースを卒業し、現在同大学大学院に在籍。かつて暮らしのなかにあった看取りの文化を現代に再構築するための取り組みや、老いた人との対話や死生観・看取りの意味を模索し、写真を通じた作品制作を行っている。2021年よりデザインリサーチャーの神野真実と共同で写真展「ぐるり。」を開催し、各地を巡回。
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