白木裕子の「実践!仕事力の磨き方」 白木裕子の「実践!仕事力の磨き方」

頭が痛い?!インフォーマルサービスの活用術

日本ケアマネジメント学会副理事長の白木裕子先生が、介護保険制度や社会情勢に対応するためのポイントや心構えを、わかりやすく伝授する「実践! 仕事力の磨き方」。今回はインフォーマルサービスの活用のポイントです。

インフォーマルサービスというのは、介護保険外のすべてのサービスのこと。ご利用者やご家族のためになるサービスや仕組み、取り組みで、公的な介護保険サービスに該当しないものは、すべてインフォーマルサービスです。

当たり前のことを改めて指摘したのは、ケアマネジャーの中には、このサービスを少し狭くとらえている人がいるように思えるからです。

改めて、振り返ってみてください。

インフォーマルサービス≒「掃除、洗濯、配食、安否確認」と思っていませんか?
「インフォーマルサービスを提供できる、民間の事業所を探さなきゃ」と焦っていませんか?

いずれも間違いではありません。ただ、いずれも、もったいない思い込みです。

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思った以上に幅広なインフォーマルサービス

最初に述べた通り、インフォーマルサービスの定義は「公的な介護保険サービス以外のすべてのサービス」です。掃除や洗濯、安否確認へのニーズは高いと思いますが、それだけに限定する必要はありません。例えば、「認知症のご利用者を抱えているご家族に対し、オレンジカフェに出向いたり、相談を受け付けるホットラインに相談したりすることを勧めする」ことだって、インフォーマルサービスに該当します。

徘徊しがちなご利用者の安全を確保するため、GPSの活用を提案されたことがある方もいるでしょう。これがインフォーマルサービスに該当するのは言うまでもありませんが、安全確保のための工夫としては「認知症の人を支える地域の安心ネットに加入する」ことや「親戚や地域の方に定期的な見守りをお願いする」といったことも考えられます。これらの工夫も、すべてインフォーマルサービスです。堂々と、ケアプランの第2表に書き入れてください。

介護保険外なら自治体のサービスだって範囲内

また「インフォーマル」と聞くだけで、どうしても民間のサービスを想定してしまうという方も少なくないでしょう。残念ながらここにも「思い込みの壁」があります。

繰り返しますが、インフォーマルサービスとは、公的な介護保険サービス以外の、すべてのサービスです。つまり、自治体が提供する公的サービスも、ケアプランの上では「インフォーマルサービス」と分類されるのです。

例えば、何らかの障害がある方が要介護状態になったら、介護保険サービスだけでなく障害に適応するための相談支援などが行われることがあります。また難病を抱えている方であれば、支援のための公的な相談窓口を紹介することもあるでしょう。よりよい住空間の確保に迫られている人であれば、公的な空き家ネットに登録をお勧めすることもあるはず。いずれも、介護保険から見れば、立派なインフォーマルサービスです。

どんなサービスがあるのか…悩んだら包括に相談を!

居宅介護支援事業所のケアマネさんの中には「自分がいる自治体や地域にどんなサービスがあるのか分からない」と悩んでいる方も少なくないようです。

この問題は、ごく簡単に解決できます。地域包括支援センター(包括)に相談し、適切なサービスを紹介してもらえばよいのです。例えば買い物が困難になったご利用者を担当しているのであれば、「宅配してくれるスーパーはどこか」「移動販売は自分の地域で利用できるのか」というふうに、具体的に尋ねてみてください。定期的な見守りが不可欠な独居の方を担当しているのであれば、「配達の際、利用者の様子を確認し、連絡してくれる配食業者などはないか」と聞いてみてはどうでしょうか。

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今あるサービスを改善することで、インフォーマルを育てる

また、主任ケアマネさんの中には、「地域のニーズにあった新たなサービスを創出することも役割と言われているけど、どうしたらいいかわからない」と途方に暮れている人がいるかもしれませんね。

この点も途方に暮れる必要はありません。先に述べた包括への相談や問い合わせを少し工夫すればよいのです。

配食サービスで考えてみましょう。包括から紹介された事業者が玄関に食事を置いていくだけのサービスしかしてくれない場合、十分な安否確認は期待できません。玄関までの移動が困難な利用者であれば、サービスを使うこともできないでしょう。

正直、困った事態ですね。でも、ここで「まあ、しょうがないよね」とあきらめてしまっては、もったいない。遠慮せず、「家の中まで食事を持って行って、配膳までしてくれる配食事業者さんがないですか。そんな事業者さんがいたら、在宅で生活できる人がぐっと増えるんですけど」と包括に聞いてみればいいのです。

現場からの要望であれば、包括も事業者に伝えてくれるでしょう。そして、事業者も包括からの連絡であれば、サービスの改善を前向きに検討するはずです。もちろん、一言伝えるだけですぐに事態が動くとは限りません。それでも、粘り強く状況を伝え続ければ、何かが変わってくるはずです。

これこそが、主任ケアマネに求められる「地域のニーズにあった新たなサービスを創出」につながる行動なのです。必ずしも、新たなサービスをゼロから立ち上げる必要はありません。既存のサービスを改善することだって、サービスを創出し、育てる行動といえるのです。

最後に、改めて強調したいことがあります。「利用者の生活を支える上で、介護保険ができることは、かなり限られている」という事実です。サービスを提供している時間は、訪問系サービスなら1日のうちせいぜい、1時間程度。通所介護などを使っても、一日の半分にも達しません。それ以外の多くの時間を支えているのは、家族であり、親戚であり、地域の人なのです。そんな利用者を支える人たちを支援できれば、利用者の生活ももっと豊かになるはず。そうした意識も持って、インフォーマルサービスと向き合ってください。そして、包括や仲間のケアマネに相談してみてください。

コラムインフォーマルの活用、制度でさらに後押し?

国は、居宅介護支援事業所の「特定事業所加算」の要件にインフォーマルサービスに関する内容を盛り込むなどして、その活用を促しています。また今年8月、介護保険法改正に向けた議論を行う国の審議会で、ケアマネが地域の多様な資源を活用する必要性が改めて示されました。こうした流れを思えば、2024年度に予定される介護保険法改正や介護報酬改定に合わせ、インフォーマルサービスの活用をさらに後押しするための新たな仕組みが設けられるかも。今後の議論に注目です。

白木 裕子 氏のご紹介

株式会社フジケア社長。介護保険開始当初からケアマネジャーとして活躍。2006年、株式会社フジケアに副社長兼事業部長として入社し、実質的な責任者として居宅サービスから有料老人ホームの運営まで様々な高齢者介護事業を手がけてきた。また、北九州市近隣のケアマネジャーの連絡会「ケアマネット21」会長や一般社団法人日本ケアマネジメント学会副理事長として、後進のケアマネジャー育成にも注力している。著書に『ケアマネジャー実践マニュアル(ケアマネジャー@ワーク)』など。

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