白木裕子の「実践!仕事力の磨き方」 白木裕子の「実践!仕事力の磨き方」

居宅介護支援を総点検!厚労省の24改定案

日本ケアマネジメント学会副理事の白木裕子先生が、介護保険制度や社会情勢に対応するためのポイントや心構えを、わかりやすく伝授する「実践! 仕事力の磨き方」。今回は、2024年度の介護報酬改定(24改定)に向け、厚生労働省が示した居宅介護支援に関する提案を、白木先生が総点検します。

厚生労働省の提案を見た時の第一印象は「がっかり」。あまりに現実離れした提案が多かったからです。

サービス割合の説明義務の緩和は、利用者にもケアマネにも福音!

もちろん、評価できる内容がなかったわけではありません。たとえば今の制度では同一事業者によって提供された訪問介護やデイサービス、福祉用具貸与の割合を利用者に説明する義務が課されていますが、この義務を「努力義務」に緩和する提案がありました。現場では、この説明をした結果、利用者から「なぜ、利用者が集中する人気の事業所を積極的に勧めてくれないのか?」と言われ、逆に特定の事業所に利用者が集中してしまうという本末転倒なことも起こっていましたので、ケアマネにも利用者にも有意義な提案と思います。

また、がん末期の方に限定されていたターミナルケアマネジメント加算の対象者が、「人生の最終段階における利用者の意向を適切に把握することを要件とした上で、対象となる疾患を限定しない」となる点も、よい変化だと思います。

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ギリギリながらも、良い決断だった新サービス導入の見送り

さらに、提案ではないですが、12月というぎりぎりの段階ながら、訪問介護とデイサービスを組み合わせた、新たな複合型サービス(新サービス)の創設を見送った点は評価できます。これ以上、サービスの種類を増やして制度を複雑にしたら、利用者は混乱するばかり。ケアマネにとっても、大きな負担増となる懸念がありました。

ただ、それ以外の提案には、残念ながら評価できることがほとんどありません。

ケアマネの専門性を軽視?「オンラインモニタリング」の導入

例えば、一定の条件を満たせば、テレビ電話などを活用した「オンラインモニタリング」を認める案が示されています。具体的には、医師も含めた関係者全員が利用者の状態が安定していると判断している上、利用者やその家族も、テレビ電話などの活用に合意していれば、モニタリングの2回に1回はオンラインで実施してもよいという仕組みです。

現場のケアマネなら誰もがわかっていることですが、モニタリングとは、利用者の顔色を見るだけのものではありません。利用者とその家族の状況に加え、家の中の臭いや散らかり具合などまで五感を活用して把握する、再アセスメントといえる取り組みです。それを「状態が落ち着いているのだから、画面越しに通話による確認で十分なのでは」と着想してしまうこと自体、ケアマネの専門性を軽視しているのでは?と首をひねらざるを得ません。さらに言えば、動画での通信に不慣れな高齢者である場合、ホームヘルパーが設定を手伝うことになるでしょう。そうなると、設定している時間だけ、支援の時間が削られてしまい、サービスの質も低下します。

かえってケアマネの視野が狭くなる?-特定事業所加算の要件変更

特定事業所加算で、4区分のすべての要件となっている「地域包括支援センターなどが実施する事例検討会などに参加している」を、「ヤングケアラー、障害者、生活困窮者、難病患者等、他制度に関する知識等に関する事例検討会、研修等に参加している」に改めることが提案されました。

学びの機会は多い方がいいに決まっています。でも、ヤングケラーや障害福祉など、具体的なテーマ名を数多く挙げてしまったことで、「その研修だけやっていればいいのか」と解釈する人が出てくる可能性があります。つまり、要件を詳細にしたことでケアマネの意識と視野が狭くなってしまう恐れもあるのです。

特定事業所加算については、要件を細分化するのではなく、簡素化する方向で見直した方がいいと思います。

その一方、管理者が担当できる件数については、この加算の要件で制限すべきです。その理由は、加算を算定するために管理者が一番多くの利用者を抱えてしまい、管理業務に時間をさけない人が目立つからです。例えば単位が最も大きい同加算Ⅰに、「管理者は職員の半分の件数しかもてない」といった要件を加えるといった工夫があり得ます。こうした要件があれば、主任ケアマネを取得して管理者になろう、と思う人も増えるのではないでしょうか。

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「スタンプラリー」が増えてしまうかも―「逓減制」のさらなる緩和

基本報酬が半減する担当者数は「40件から」と位置付けられていますが、それを「45件から」に引き上げる案も示されました。いわゆる「逓減制」のさらなる緩和です。「逓減制」については、2021年度の介護報酬改定で既に緩和されています。しかし、改定後の3年間で逓減制の緩和を活用したケアマネは全体の1割もいません。その状況で、さらに緩和を進めたところで「ならば、今度は活用しよう!」と思うケアマネがどのくらいいるでしょうか。

そもそも、まっとうなケアマネジメントをしようとすれば、担当できる件数の限度は35件、といったところでしょう。それでも、何が何でも「逓減制」の緩和を生かし、より多くの利用者を担当させようとすれば、利用者の様子をほとんど見ずに印鑑だけを押してもらうためだけに訪問する「スタンプラリー」が増えてしまう可能性だってあります。

とにもかくにも不可欠!基本報酬の引き上げ

以上、居宅介護支援に関する厚労省の提案について、概観してきましたが、何よりも大切なのは居宅介護支援の基本報酬の引き上げです。ケアマネジャー不足に歯止めをかけ、在宅の介護崩壊を防ぐためにも、その実現は不可欠といえます。

コラム介護報酬改定、施行時期は4月と6月に

2024年度の介護報酬改定の施行時期は、サービスによって異なります。具体的には、居宅療養管理指導と訪問看護、訪問リハビリテーション、通所リハビリテーションの施行時期は6月、それ以外の介護保険サービスの報酬改定の施行は、従来通り4月となっています。ちなみに、診療報酬改定の施行時期は6月となりました。

白木 裕子 氏のご紹介

株式会社フジケア社長。介護保険開始当初からケアマネジャーとして活躍。2006年、株式会社フジケアに副社長兼事業部長として入社し、実質的な責任者として居宅サービスから有料老人ホームの運営まで様々な高齢者介護事業を手がけてきた。また、北九州市近隣のケアマネジャーの連絡会「ケアマネット21」会長や一般社団法人日本ケアマネジメント学会副理事長として、後進のケアマネジャー育成にも注力している。著書に『ケアマネジャー実践マニュアル(ケアマネジャー@ワーク)』など。

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